folja
創作

夜に瀟瀟降る雨に湿ったリノリウムに

更新

戻れない夜、道連れにしてしまった哀しい〈君〉──。互いの書いたものを酷くこねくり回して、書くべきことを失わせ、何もわからなく、台無しにしたもの。元元は意味の通るものだったからに、どうしてこうなったのかわからない。(概要執筆:awayatan)

 もう戻れない夜のほうが多い。

 ここからは他人の話をする。稀代の運命によって道連れになった、哀しいひとのために……。たとえば〈君〉とでも呼んでおこうとおもう。これは〈君〉のための文章ではないけれど。

 電気の消えて、夜に非常灯だけがついている校舎を、ひとり巡回しているといって、案外つまらないね、と、〈君〉からメッセージをもらったことがある。七年前、夜にしてみれば千夜を二度、それよりさらに多い。それからしばらくして〈君〉は急速に憔悴して、気の毒なほどだった。その夜に高揚した消火栓の灯りに驚いて、何もかもを落としてしまったようになって、それから一ヶ月も経たないうちに、もういつ消えてもおかしくないようになった。あんまり他人は信用するものじゃあないね、誰もが消えてゆくし、と、そういうことをいって(そのわりに未だ一番信用していけない奴を信頼しているのはほんとうに馬鹿げているとおもう、こうして嘲笑されてもなおそいつを信頼するのは全然ためにならない)、それからは世界にあってはならないように存在を押し込んで、ときたま暴走するそれに手を焼いていたようにみえた。込み入ったことは訊かないでいたけれども、ものごとがおかしなほうへ進んでいることはわかっていた。

 それから、〈儀式〉として、壮大に、共同して、そうした呪縛を葬るための、緻密な(実際ありとあらゆることが起こってもよいように、数ヶ月かかって全体を計画した、ありもしない未来を一番多くみた月日かもしれない)行為を遂行した。〈儀式〉に、あってはならないものを消し去るような心持でわれわれを悪人にしたて世界から訣別することを期待しながら。

 はっきりということはないけれど、おそらく〈君〉は、あの夜の向こうへ足を踏み入れたことで人生が元に戻らないくらい狂ったことを、薄薄認めようとしている。そうしなくてはむずかしいだろうから。  雨の降る夜のリノリウム。〈儀式〉が終わるころ、それを主題にしてひとつ共作した。あの日は晴れていて、星空がみえていたから。

 これ以上かける言葉はない。〈君〉がすべて悪人でないと、〈君〉が関わってきた(あるいは当時の言葉を借りれば、貶めてきた)ひとたちが報われない。もうそのひとたちの弁明をきくことはないというし、〈儀式〉が唯一失敗したのがその弁明を、ひとかけらも得られなかったことだった。

 償いのない悪人。雨夜。明け方にかけて雨が降るというので、ふとこれを書きたくなった。

 これは〈君〉以外にとって完全なフィクションである。〈君〉だけが悪人で、そうではないときはいっときもなかった。そう結ぶしかない。その心懐がいちばん救いようがある、そうだろう? その幻想の共謀者たちは、幻想である限りたいへんに幸せに生きていられる。

 〈君〉へ。今日すみやかに死んでもいいけれど、〈私〉の明日の退屈を紛らせてからにしてくれ。死の香りは昔から濃く飽き飽きしているのだ。